Wi-Fi飛んでる? 神さまって信じてる?

音楽・マンガ・映画・その他 いろいろ感想をメモしておくブログです。

坂井恵理『ヒヤマケンタロウの妊娠』

★★★

ん〜〜〜なんかめっちゃ惜しい……。男性が妊娠するようになった社会、という設定で、何よりそれを肌感覚としてとても「わかる」今っぽいリアリティに昇華していたのが素晴らしかった。女性の立場が男性に、だけでなく、男性の立場が女性になったことへの痛み(つまりアラサー女子は、妊娠した男に「結婚しよう!」と言えるのか? と)もしっかりと描かれていて、そこも含めてバランス感覚はすごく良かった。

ところが問題なのが、毎話ごとに登場人物が移り変わってしまう作品構造で……。めちゃめちゃヒキのいい第1話を読ませてもらって星5つ!!って気分のまま次のページをめくれば、そこでは既にヒヤマケンタロウは私たちではなく、ただ「遠くで話題になってる人」になってしまうのだ。何でやねん!! オムニバス形式を通じてやりたかったこと自体は判るのだが、ばらばらの主人公たちを描くことで同じテーマがさらに深く掘られているかというと、正直そうではないーー絶対に最後までヒヤマが中心だったほうが内容的としてもテーマとしても肉薄できたはずで、結果、ただアイデアがとっ散らかっただけになってしまっていた。単行本1冊で収める内容でもなく、この抜群の設定に作者自身が飲まれてしまったのかなと思う。

この本が出なかったフリをして、ちょっと長い新連載を始めてしまってもいいし、あるいは誰かが公然とパクってテレビドラマとかに再構築しそうかな……(こういう設定は他の作品にもあるようですが、とにかく「今っぽさ」と「共感を作ってくれる」感じが、ものすごく抜群だったので)。