Wi-Fi飛んでる? 神さまって信じてる?

音楽・マンガ・映画・その他 いろいろ感想をメモしておくブログです。

『空の青さを知る人よ』

★★★★★

あれ、もしかして2~3年に1本クラスの映画だったのでは…? と映画館を出て歩きながら一瞬そう思ったけれど、にしてはあまりにも地味な内容で、ちょっと判断つかないな、と軽く混乱した。フォーカスが当てづらい作品で、予告編を作るのは大変だったろうと思う。

まぁしかし、だ。

超平和バスターズ」は、あんなにクソ成功してアニメーション界から一目置かれる生活送ってるくせに、どうしてこれほどにも20代を暗く終えてしまったルーザーたちの気持ちがわかるのだろう。主人公たちの「31歳」という年齢があまりにも絶妙で、絶妙っつうかいまの自分の年齢で、地元で軽自動車を運転しながら日々たんたんと過ごしているあの景色は怖いくらい今の自分だし、部分的には夢を叶えたとも言えるけど18歳の自分が目の前にいたら罵倒してくるんじゃないかと思えるところまで自分だし…よく考えたら自分が最後に好きだったあの女の子は眼鏡かけてて雰囲気ちょい似てて18歳を最後に会ってないとこまで一緒じゃんとか考え始めてこれもうダメだと思って、映画の“全て”にめちゃめちゃシンクロした。シンクロしたといえば相変わらず王道の少女漫画的な楽しみ方も健在で、しんのにいちいちドギマギするあおいの気持ちが180%解ってそれだけでも泣きそうだったし実際何ヶ所か泣いてしまった。ステージ裏で"再会"する慎之介とあかねの「元恋人」感の生々しさはハンパじゃなく、実写では不可能だったんじゃないかとすら思える。ひとりひとりのキャラクターが抜群に立っていて、正嗣くんも千佳さんもきっといいことがあるよって言いたくなってまた泣きそうになったし、彼らが少しだけ本音を隠しているからこの乾いた風の町はやさしく回り続けているわけで、そんな想像力にまで想いを馳せてしまって、本当に本当に丁寧に積み上げられた作劇と、さりげなく、しかしクソ気が効いてる小さな演出の数々はもう国宝レベルだ。初恋の物語であり、姉妹の物語であり、家族の物語であり、夢の物語であり、青春の物語であり、青春の終わりの物語であり、挫折と再生を描き出した物語であり、想いと絆を描く物語であり、人生そのものを描き出した喜悲劇であり、バンド映画でもあり、それらすべてが、一方とてもシンプルで素朴な形に、平等に共存していて、こういう「ジャンル分け」やら「作品のテーマ」とやらが本来はどれだけヤボで本質的なことではないのかをこの映画は存在だけで証明している。で、これら全てにおいて、ありとあらゆる「作為」が丁寧に骨取りされているのがマジですごい。一種の余裕すら感じられた(あれほど「作為」のない『リズと青い鳥』すら、この映画と比較したらまだ青い)。『ここさけ』にはそれでもちょっとあった「ウケたい」みたいな色気も今作ではほとんど無くなり、本当に“大人の作品”になっていた。もはやヒットさせる気がないのかもしれない。「ヒットにはしないけど、君たちにはきっと必要な映画だと思うから、一人でこっそり映画館に来てね」って感じなのではないか。もう、それ、超正しい。

思えば、このチームは一貫して(『とらドラ!』の後半から)「主人公になれなかった人々」の映画を作り続けてきたんだ。それはつまり「わたしたち」であり、何があってもこれから人生が一変しえない平凡で「普通の未来」に収拾されてしまった人々であるということだ。エンドロールの仕掛けはあまりに身も蓋もなくて、ちょっと笑っちゃったけれど、あれはつまり「これは"ストーリー"ではありませんでした」って意思表示だったんじゃないか、って気がついたらいつのまにか僕は映画館の近くにあるお店で二郎系ラーメン食べながらほろほろ泣いてしまっていて。ようやく判った。悔しかったのだ。ついに、「"ストーリー"」の最後の壁を壊したアニメーション映画が誕生したことに。本当の意味での、市井の人々のための物語であることに。この作品は「世界一」ではないかもしれないけれど、ぼくは、このひとびとの後ろを歩いてゆきたい、と『ここさけ』の時にも同じことを書いて、もう本当に、それは正しかったんだ、と思えた。

「すこしふしぎ」な物語をフィルムに着地させた圧巻の背景美術(この映画、一言でいえば「令和の『となりのトトロ』だよね」)、そして横山克の繊細な劇伴はあまりにも素晴らしい。「主人公が空を飛ぶ(跳ぶ)シーン」が、これほどまでに自然に導入されるアニメ映画ってここ20年間はなかっただろう(もう宮崎駿超えたな)。クレジット見てびっくりしたけどメインキャスト3人は全員俳優(非声優キャリアの人)!! めちゃめちゃ上手かった。あと松平健が超〜〜〜違和感なくて。なんつうか、パーフェクトゲームだな……。あいみょんの挿入歌も良かった(が、ここまで来るとスガシカオくらいまで行ってもいい気もする)。今作でほとんど達成されたとも言えるけれど、ぜひ次こそは「高校生の出てこない」アラサーのためのアニメーション映画に挑戦してほしい(これが、いまの日本のアニメーションの一番の課題だから!)。

そして、タイトルだ。タイトルなんだよ!! 日本中の、“空の青さを知る”人々にまで、跳んでゆけ!!!!

もう1回くらい映画館で見てから判断しようとは思うけれど、たぶん、自分にとって5年〜10年に1本のアニメーション映画。生涯ベスト5。もちろん紛れもなく、今年ナンバーワン映画。