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音楽・マンガ・映画・その他 いろいろ感想をメモしておくブログです。

峰浪りょう『初恋ゾンビ』

★★★★★

ようやく!!読めた!!事前の期待をさらにさらに上回る大傑作だった!!

青春漫画の金字塔『ヒメゴト 〜十九歳の制服〜』の峰浪りょうによる最新作であり、少年誌である週刊少年サンデーで連載された“ラブコメ”、『初恋ゾンビ』。連載中盤から尻上がりに話題になっていたようで、最終17巻のAmazonレビューも賛否両論・アツい長文の感想がずらり並んでいる。僕も「あー、片鱗はあるけれど、まぁハーレムコミックではあるなぁ……」と読み進めていたけれど9巻〜10巻あたりから次第にあの『ヒメゴト』を彷彿とさせるシリアスな心理劇に突入。正に息もつかせぬ怒涛の展開とドロドロの愛執、逃避、どん底のきらめき、そして頭が真っ白になるくらい完璧なハッピーエンドに思わず持つ手が震えた。さらに最終巻で、ある設定に関するどんでん返しもあり(第1回で「ん?なんか変じゃない?まあいいか……」って思ってたら、それが実は伏線で設定上の矛盾もきれいさっぱり無くなる仕掛けに脳天吹っ飛ばされた)、ミステリー的な大仕掛けも見事にキマって本当に物語を描くのが好きな人なんだなこの作者は、ってめちゃくちゃ伝わってくる。第1巻の最後まで読むとわかる(あまりにも序盤のネタバレとはいえ、あえて言いませんが)「いつ?いつ主人公は知ってしまうの?」って少年漫画らしいとあるハラハラ要素があるのですが、その明かし方もめちゃめちゃ大人でドラマチックで、しかし雄弁で、なんてゆ〜作劇なんじゃ!! って心の中で悲鳴を上げた。ああ、クソかっこいい!! 一方で、ストーリー終盤には関係図的に完全な泥沼状態になるものの、『ヒメゴト』と違って各キャラクターたちの前向きな、元気で一生懸命な様子がそれほど物語に重たさを感じさせず(僕はヘヴィになっていくのも大好きだけど)、いい意味でサンデー的な、とても読み進めやすいものになっていたのも印象的。みんなその時の一生懸命を生きていく様子が、そしてそれ故にどんどん傷ついていってしまう姿が、さっきまで同じキャラで“ラブコメ”風の話やってたくせにぜんぜん違和感なくシームレスにその世界までまっすぐ繋がっていて、そういうところもめちゃめちゃ素晴らしかったな。うそのない、まばゆい人々の世界だったと思う。……といいつつ、ペロッとめくれると急に冷めた女子の本音みたいな場面が出てきたりするのもすごく好き……(15巻の39ページとか。あまりに冷めすぎてて笑った)。

星の数的には満点にしたけれど、迷ったポイントもあった。序盤のあれこれは、怒涛すぎる後半と比較すればさすがに見劣りする。そしてやっぱり自分は、少年誌のノリは根本的に苦手なんだなと改めて実感(次はもう少し掲載誌の年齢を上げて欲しい……)。これから読む人は17冊も積み上げなきゃいけないわけで、決して間口の広い作風ではない『ヒメゴト』よりもさらに勧めづらいしんどさはある。けれど、やっぱりすばらしい読み応えの作品なので、もっともっといろんな人に読まれてほしいな……。ちなみに、こんな色んな角度から浮いてる女の子を無数に描かなきゃいけない作品なので、アニメ化とかは無理だな。

余談になるけれど、読破後に作者インタビューを見つけて読んでみたら(リンク先ネタバレ注意)、実は物語の直接的なモチーフが「世界最古のラブストーリー」である旧約聖書の創世記で、イヴとリリスの名前もそこからとったとのこと。<イヴと楽しく過ごすことがこれまでの男性の正解だったのかもしれませんが、時代も変わっていく中で、そろそろリリスと和解しても良いじゃないかなと>……まいった!!!(それを、少年誌で、やってしまったのだ!!!)