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音楽・マンガ・映画・その他 いろいろ感想をメモしておくブログです。

水沢悦子『ヤコとポコ』1〜2

★★★★☆

1巻しか読まないのと2巻まで読み進めたのとでは(ほとんど新規展開はないんだけど)かなり印象が変わったので、ここにどう書こうか迷ったけれど、その変化も含めてまとめた文章にすることにした。

80〜90年代のファンシーグッズのようなホニャホニャした世界観で描かれる、中堅少女漫画家とそのアシスタントのロボットの日常をスケッチした連作作品集。ほのぼのした会話に間の抜けたイラスト、ゆっくりまったりの展開のその裏側にーーなぜか異様な狂気というか、作者の意思というか、殺気を感じるギャップがすごい作品。インターネットがおそらく崩壊した「革命後」の世界、というある種のディストピアが舞台で、絵柄のギャップも合間って「何だこれは……何だ?」と頭が混乱してもくる。「ゆっくり、まったり生きていけばいいじゃん」というふんわりしたメッセージの裏側に、現代社会への強烈な風刺が何層にも折り畳まれていて、その意思の強さがさながら「殺気」にすら思えて、そこが正直めっちゃ怖い。なんだこの作品……

と1巻までは思っていたのだけれど、2巻まで進めるとだんだんその「異様さ」の正体が、実はすごくピュアな「切実さ」だったのだ、と気がつき始める。ポコは自分のだめだめさをずっと気にしていて、ヤコは自分の中にある激情や退屈さをずっと我慢し続けていてーー無邪気に流行に甘えられたり、作品がヒットしたりして「出世」している人のことを遠く強く羨ましいと思っていても、かといって自分もまったくひどい人生ではなくて、それなりに生きてはいるしある程度満足もしていて、だけどどこかで、なにかをずっと「諦めて」いる。つまり「てきとう」に生きればいいよ、という作品ではなくて、「てきとう」に生きればいいんだ、それでお前はいいんだ! と、血走った目で自分の腕にナイフを突き立てながらそう言い聞かせている人のことについてを描いた作品なのだと思った。だからこそ、七夕の短冊を「自分で努力するから別にいい」って拒否するくせにゲン担ぎに頼り切る自分の矛盾が悔しかったりするんだ。書店のディスプレイを目にした瞬間には、ヤコよりも先にこっちが泣いてしまいそうになった。わかる……と思った。気が狂いそうなくらいまともでやさしい世界で、やっぱりここもディストピアで、だからこそ、過剰な自意識をはがせた瞬間に訪れるやさしい風がぜんぶ本物なのだろう。これはすごい……すごいよ。ハマるのが不安になるくらい大好きな作品になった。

「ダメ」モードの伏線そこに来るんかい! みたいな、そんなユーモアも含めて漫画作品としても作り込みが面白い作品。おすすめです。