Wi-Fi飛んでる? 神さまって信じてる?

音楽・マンガ・映画・その他 いろいろ感想をメモしておくブログです。

『天気の子』

★★★★☆

こんな映画がずっと必要だった。これこそが、「現実」に立ち向かうための新しい時代のアニメーション。


 何が一番すばらしいって、「メッセージ」だよ、って言い切れるアニメーション映画が果たしてどれだけあるだろう。この物語における「最後の一言」は、私たちに魔法をかけてくれるわけではなく、どこまでもただ「現実」を言い当てているにすぎなくて、けれどそれでも私たちは選び、間違えて、否応無くその世界に生きていくしかなくて、だからこそこの「最後の言葉」を、ポケットに入れて一緒に立ち向かっていこうよ、やっていこうよ、と鼓舞する内容には鳥肌が立つ想いだった。狂信的な「正しい」が人間たちを引き裂いて、圧倒的な理不尽が夢と希望をかき消して、たとえこの国や、文化や、営みをばらばらにして水の底に沈めようとも、そのあとの世界でただ毎日を生きてゆく、勇気ある人々のための物語だ。これからまだまだ、どうしようもなく何度も何度も間違えて、これまでの世界の形では決して生かされてゆかない。「過去の栄光をちょっとづつ切り崩していく」時代にこれから私たちは突入していくだろう、ということ、その感覚をこんなにも掴んでいて、まるで先回りしたかのように編み込まれたメッセージは衝撃的なくらい素晴らしかった。というか、むしろ後世には「早すぎた傑作」と呼ばれるかもしれない。この映画がたとえ他の幾つかの傑作映画と共に埋もれたとしても、発見された時には「あ、もうこの映画から「始まって」いたんだな」と次の世界の人々を驚かせるものになるだろう。ここから時代を変えていこう。ずーっとどしゃぶりで沈没していくこの世界に、アニメーションは何ができるのか、この映画をスタートに、羅針盤に、考えてゆこう。

大好きなところは一杯ある。数々の東京の景色はこれまで自分が31年間生きてきた中で見てきたものばかりで、人生を早回しされているような感覚に陥った。前半のハイライトであるビッグマックのシーンは、ぼくが結局アニメーションでやりたいことってこれなんだよ、って感じで猛烈な嫉妬心に陥るくらい素晴らしかった。また、さながら『万引き家族』のような棄民たちが社会の片隅で(すきまで)これまでにない形でお金をかせぎ、生を受けていく展開はファンタジーでこそあれ、これからの時代の新しい生き方の一つを間違いなく提示している力強さがあった。一番下から一番上まで、様々な年齢の人々が次々に登場する展開も最高で「こういうのが足りてないんだよ日本のアニメは!!!」と叫びたくなるくらい。決してヴィジュアルだけでなく「世界の広さと多様さ」を映し出してゆく思想には涙が出るくらい感激する。その圧倒的な視野の広さには、新海誠ってこんなにすげえんだっけ、すげえんだっけって、膝を折りたくなるくらいだ。前作は東日本大震災をどストレートにモチーフにしたセンセーショナルな作品だったから、今作はある意味でようやく「ふつうの映画」になったわけだけど、技術面、思想面、そして作家性、全てにおいて間違いなく新海誠の最高傑作だと思う。

ただ、さながら数十時間のノベルゲームを2時間にばっさりまとめたような駆け足の展開は、見ているときはあまり気にならないけど見終えた後に反芻すると「ん?」となる部分もある。特に後半…の中盤あたり、何とか盛り上げようと「とってつけてる」部分はさすがに疑問で、「いやいや!いやいやいや!!」と心で何度も思ってしまった。その前後が素晴らしいだけに、カーチェイスも銃撃戦も果たして必要だったのか……(そもそもこの物語に「銃」は本当に要るのかなあ)。

それにしても、リーゼントとかで笑いをとりにいくのはずるいと思います。