Wi-Fi飛んでる? 神さまって信じてる?

音楽・マンガ・映画・その他 いろいろ感想をメモしておくブログです。

スピッツ『見っけ』

★★★★☆

不思議なアルバム。

前作の『醒めない』とはまるで対になるような作品になっていて、『醒めない』がちょっと静かな、老いをイメージさせる内容を含んでいたこととちょうど逆、全体的にアッパーで若々しい生命力のあふれたアルバムになっていた。山の緑と広い高原と、そこを吹き抜ける春の風や夏の匂いがむわっと香るような、とても景色が見えてくる爽やかさが印象的。ただし……この“ただし”がすごく重要で、それら「若さ」をイメージさせる歌詞はどれもすごく物語性が強くて、これまでの(ここ10〜15年の)スピッツ作品以上に、明確にフィクションであることがわかる内容だったのがとても面白かった。セカオワみたいな世界観がある「花と虫」や、ケルト伝承のような雰囲気がただよう「まがった僕のしっぽ」はその代表格。ノスタルジックな空想、遠い記憶が昔話と混ざり合って形を変えていったような歌詞・物語が全曲を包み込んでいて、単に「瑞々しいアルバムだな!」とは言い切れない不思議な印象があった。これまで以上に感傷的で、自意識の世界にあって……きっと他の方も指摘されているだろうけれど、こういう「霞がかった物語っぽさ」は、昔の(つまり、おおよそ『フェイクファー』以前の)スピッツ作品と似通ったものがあると思う。

前作もだけど、それこそ『優しいあの子』のカップリングだった「悪役」みたいなナンバーがほんとうはアルバムに1曲欲しい。僕はパンクバンド・スピッツのファンなので……。ただ、特に今作みたいにコンセプチュアルな内容には、そういう曲を入れる隙間はないんだろうな。意図的なのか、たまたまそういう季節なのかは判らないけれど、草野マサムネの「今やりたいこと」がとてもしっかり見えたアルバムだった。