Wi-Fi飛んでる? 神さまって信じてる?

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戸田誠二『egg star』

★★★★★

この世に同じ作家さんは二人といないから、「戸田誠二は特別な漫画家だ」とは決して言い切れない。でも確かに、確かに「戸田誠二の作品」じゃないと読めない"何か"があって、「Making World」からずーっとここまで伸びている光があって、そしてこの『egg star』は、紛れもなく、戸田誠二という特別な漫画家の、あの光の先に生まれた集大成的傑作だと思う。

星の王子さま」をモチーフにした、とある青年の10年間の物語。そのぶっ飛んだ設定に反して、描かれるのは本当に人生の「ありふれた」出来事ばかりで、生きることに夢中になるあまり考えることを忘れてしまう「苦しさ」や「やるせなさ」を、この漫画は丁寧にスケッチして、ドローイングにして、やさしくあたたかな眼差しで物語へと映し出してゆく。雑居ビルの下で、太陽の下で、背中を曲げてもがき続ける平凡な人間たちを鮮烈に描くさまは、まるでブリューゲルや、神田日勝のそれみたいだ。そうだよ、戸田誠二は現代の「農民画家」なのではないか。

きっと誰もが、自分だけが地球じゃない遠い彗星から堕ちて来た存在で、だから他の人よりも色々なことが「よくわからない」んだ……と思ってしまう瞬間があると思う。けれど、わたしたちはそれでも、あの彗星から送り出された。花がとなえた三文字の理由を知るために。いつまでもどこまでも孤独で、時に大きくすれ違って、人生にあと少し何かが間に合わなかったとしても。いや、間に合うんだ。本当はきっと、まだ間に合うんだよ! そうこの物語は叫んでいるのかもしれない。いや、いつだって戸田誠二は、そう叫んでいたに違いないんだ。「間に合うよ」。やろうぜ。生きようぜ。自分にしかきこえない「好きよ」という花のささやきに、いつか「僕も好きだよ」と応えるために。

(みなさま、どうぞ、よいお年を!)