Wi-Fi飛んでる? 神さまって信じてる?

音楽・マンガ・映画・その他 いろいろ感想をメモしておくブログです。

スタヂオひまつぶし『沼男《スワンプマン》は誰だ?』

★★★★☆

アニメーション作家・久海夏輝らが展開する「スタヂオひまつぶし」が発表したクトゥルフ神話TRPGのリプレイ動画。

えーと、僕も詳しくないのですが(以下説明、読み飛ばしてOKです)、作家・ラヴクラフトが20世紀初頭に発表した怪奇小説シリーズ「クトゥルフ神話」を、アメリカの会社が「クトゥルフの呼び声」というテーブルトークRPGにアレンジして、それを元に日本のアマチュアが作ったシナリオが『沼男は誰だ?』で(「クトゥルフ神話TRPG」というゲームエンジンを使って作られたゲームソフト、と考えるとよい)、それを2012年に久海夏輝らが実際にプレイし、さらにそのプレイを本人がアニメーション作品にしたのがこれ。なのでつまり四次創作? 五次創作……? ということになる。権利のややこしさをここで語るのはもうよそう……。

とりあえず「実際におしゃべりしながら即興で物語を作っていくゲーム」と考えればいいのかな。僕も一回しかやったことないから許してくれ*1……。

長々とすみませんでした。

で、実際のTRPGプレイを元にして小説を出版したり、はたまた独立した映像作品に仕上げる、というのは実は意外にあるらしくて。それでも『沼男《スワンプマン》は誰だ?』は、ゲーム画面のようなレイアウトを模しつつもカットインや演出、時にはがっつりとアニメーションも交えてストーリーを巧みに表現し、それらとはクオリティ面でも一線を画している。視聴者を物語に没入させ、さながら自分も一緒にプレイしているような気持ちにさせてくれます。「もし自分が同じ立場ならこう言うだろうな〜」とか思わず考えずにはいられなかった。

全21回、合計9時間超という海外ドラマのようなボリュームですが、抜け出せなくなります。足掛け6年間という長期連載作品になっていて、今年の2月にようやく完結。6月には完結記念座談会の動画もアップされていました。

前書きが長くなってしまったけれど、とにかくこの『沼男は誰だ?』というシナリオの出来が素晴らしい! ちょっとスケールが大きくなりすぎてしまうのでそこで冷めちゃう人がいるかもしれず、その好き嫌いはあれど(これはクトゥルフ神話の特徴でもあるらしい)、「スワンプマン」という有名な思考実験を実際にプレイヤーにもやってもらいつつ、後半で見事に……あまりにも見事にそれを使う仕掛けには、衝撃を通り越してショッキングですらあった。マジでその瞬間は自分の目の前が真っ暗になった。声も出なかった。これはある意味、TRPGでしか出来ないことかもしれない……。映画・漫画・音楽とかいろいろ見て聴いてきましたけれど、創作物でここまでショッキングな経験を食らったのは本当に久しぶりで、人生を通じてもそう滅多になかったのでは……と思わせられるくらいだ。本当にびっくりした。とんでもないわこれ……。

そして同時に、「ただプレイヤーを驚かせてショックを与え、心をえぐる」というオリジナル・シナリオの部分にとどまらず、ゲームマスターを務めた楠木(今回のアニメーションにはイラストを大量に提供)がウェットな人間ドラマや愛らしいキャラクター描写を巧みに追加し、見事にそれをドラマチックかつ繊細な「物語」にまで昇華させている。事実上の「プレイヤーA」として重大なポジションに選ばれた久海も、(時々恥ずかしがりつつ)即興のセリフや行動で素敵なプレイングをし、補完。視聴者に希望を残し、そしてドラマをしっかりシナリオとして完結させる方向に誘導し、演出している。

各々のキャラクターも(生身の人間が即興で演じているので当然そうなるのだが、それにしても!)とても魅力的でなおかつ立っていて*2、あまりにも熾烈なシナリオ展開で途中マジ泣きしてしまってたりとか、それでも一つ一つ、歯を食いしばりながら選んでゆく選択の数々には、こちらまでもらい泣きしてしまいそうになった(あそこの「キャラクターもプレイヤーも泣いている」という演出、シナリオを書いている方ならドキッとしたはず)。

普段とはぜんぜん違う世界をのぞき見る感覚で、ぜひご覧になってみて欲しいな。特に海外ドラマをめっちゃ流し見てる方とかは、入り込みやすいはずです。重ねてだけど凄まじいインパクトのあるシナリオ、そしてそれをさらに重たく・同時にエモーショナルでエンタメたっぷりに昇華させたゲームマスターとプレイヤーたちの即興演劇の数々が、本当に素晴らしかったです。

それにしても、前回は久海(さん)がゲームマスターだった『闇をゆく者達の宴』がハリウッドばりの本格アクション映画だったことに対して、今回の楠木(さん)がゲームマスターをした今作は一転してヘヴィーなドラマ重視、メッセージというか「考えさせる」ことに重きを置いたシナリオだったのは、互いの連続性も感じさせつつ見事に別々のアプローチになってたのが面白かったし、何より良かったと思えた。こうなると次はシナリオ面でも夫婦合作の何かを見てみたくなりますね……。

*1:正にこの動画シリーズの影響で友達にお願いして「まよキン」をやってみたのですが、なぜかイキってキャラシートでギャルの女の子を作ってしまい、もう恥ずかしくて恥ずかしくて心折れました……。

*2:オール男性キャラなので、ブロマンスが好きな方にもきっと魅力的に見えるはず。