Wi-Fi飛んでる? 神さまって信じてる?

音楽・マンガ・映画・その他 いろいろ感想をメモしておくブログです。

小坂俊史『モノローグ書店街』

★★★★★

静かな傑作。

2011年夏、旅行先の遠野市の小さな本屋さんで小坂俊史の『遠野モノがたり』を表紙買いして、思えばあれから今年でちょうど10年になる。小坂の代表作である「モノローグシリーズ」8年ぶりの続編は、あいかわらずギャグがかっ飛んでいる作品ではないけれど、時々ハッとさせられる、思わず読む手を止めて考えてしまう、そんな鋭い観察眼や眼差しがあって、そのキレは全く衰えていなかった。

今回は加えて、「本屋」というテーマが、もう、すごくて。「何で本屋?」って最初は思うんだけれど、いや、これは、本屋なのだよ…! ノリは軽いし、というか「軽薄」だし、作品全体でも大した事件は何も起こらないのに、この物語全体から醸し出されている、「何かから何かを守るための血みどろの闘い」が、その闘志と意志と想像力と数百円が、青い焔になってメラメラと燃えて単行本の紙の先から指を焦がそうとしてくる。2020年という狂った1年間を通して描かれ続けた、「いつか消えてしまうであろう日常」の、鮮烈さ。

<そう この町はまだ大丈夫/なにせまだ本屋が開いてんだから/みんなにそう思われていたいな/そういうものでありたいな/これからもずっと>

ノローグシリーズ恒例の「大仕掛けの最終回」は、それまでの本編とほとんど同じテンションのままで、けれどやっぱり今回も号泣モノの「大仕掛け」が、しかもいくつも仕込まれていた。こんなん泣かないなんて無理だ。枕に向かって声を押し殺してオンオンと泣いたよ。「なんでそんな設定のキャラなんかな?」と思ったら、ああ、このために、このたった1コマだけのためだったなんて! 不思議なことに、泣き終えて読み返し始めるとまた次のエモの波が来て、また泣いてしまう。そうやって延々と何度も慟哭してしまった。はー。ティッシュの山が積み上がっていく……。

「想像力と数百円」は、僕が世界で一番好きなコピーのひとつなんですが、ある意味最もそれを体現しているのはこの本なのかもしれない。正直、これもebookjapanで買ったし、紙の方もネット通販で揃えてしまったし、それを店頭のポップでも誰かに直接語るでもなくこんなはてなブログに書きつける自分だけれど……って書いてたらまた涙が出てくるんだもん。そうだ。想像力なのだ。小坂俊史という、類まれな「想像力の巨人」のその指先に触れる体験なのだ。静かで、狭くて、ヤマがなくて、オチもない(いや、あるんだが)変わった4コマ漫画だけど、どうか読んでみてください。静かで、狭くて、ヤマがなくて、オチもない、ということはつまり、生きてゆくことそのものなのです。よければ、近所の、本屋さんから。