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音楽・マンガ・映画・その他 いろいろ感想をメモしておくブログです。

笹生那実『薔薇はシュラバで生まれる ー70年代少女漫画アシスタント奮闘記ー』

★★★★★

「少女漫画黄金期」と呼ばれた1970年代初頭(50年前!)から1980年頃に10代でデビューし、名だたる少女漫画家たちのアシスタントを経験した筆者による自叙伝。何と自身32年ぶりとなる商業出版だという。

正直、想像を大きく上回るすっごい漫画だった。3回くらい泣いてしまった……。こう書いたら絶対失礼ってわかるんだけど、わかるんだけど、だって当時15歳とかですよ、デビューが。当然まだぜんぜん女性が社会的に優遇されていたとは言い難い時代にですよ。20歳で旅館にカンズメになってろくに寝れずに雑誌を支えるような漫画を描いてて、その下には高校生の、中学生の子たちがアシスタントとして集まって、眠気をとばすためにみんなで怪談話しながらおしゃべりしながら何十時間って作業を何度となく乗り切って、後の革新的傑作を、時代を切り開く名作を生み続けていたっていう……。20歳なんてまだ子どもじゃん。そんな年齢から自ら選んで「シュラ」の道に踏み込む覚悟とか想いとか……。なんて時代なんだ。しかも(これはほぼ同時代の『手塚治虫〜』や『まいっちんぐマンガ道』もそうですが)作画資料が一切ない時代、集めに行く時間すらない時代に、ただただ己のそれまでの技術を総動員して一切手を止めることがなかった。それでも時間がなかったりして、諦めてしまった小さなマンガのディティール一つ一つに確かに傷ついたりもして。それでもやめずに、熱い、そして強いメッセージをマンガに込め続けた人々の戦いのお話で……マンガで描かれている時代や、エピソードや、風景が、そのもの以上に大きく心の中でふくらんで、つむじ風になっていく。鳥肌立ちっぱなし。作品自体は明るく、さらっと、ふにゃっと描かれていることが、逆にこの時代の熾烈さをぐぐっと際立たせているのです。

ていうかもう、絵もだけど内容もそうなんだけど、これしっかり「少女漫画」なんですよね……。そして主人公は、決して「主人公にはなれなかった」人物であって。僕はもうそういう作品に弱いんだ。めちゃめちゃ弱いんだ……。

名言が多すぎて心打たれすぎてもうなんか吐きそうなんだけど、頭蓋骨吹っ飛ばされたのはこれ。これだけだと何のことだかわかんないと思うから是非読んでほしい。

<あんたの命なんかいらんわい!死ぬんなら……右腕置いていってね>

悔しいのが、登場する作家さんの作品は1本も読んだことがなかったこと……勉強したいなぁ。三原順先生だけちょっとフィクションっぽいキャラクターとして描かれていてふしぎだなと思ったのですが、あとがきでこの方だけ早世されている事実を知って合点がいったりして。ジーパンにカーディガンで片膝を立て、たばこを吸いながら原稿を描いてるたった1枚のカットに込められた哀悼にもう一回泣きそうになりました。しみじみタイトルもすごいよな……これだけで詩になってるもんな。くそ、また泣きそうだ。<薔薇はシュラバで生まれる>。

漫画を描くことを青春の記念では終わらせない!