Wi-Fi飛んでる? 神さまって信じてる?

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キリンジ「Drifter」

クラムボンの『2010』と、ほぼ同じころに出会った曲。当時、それまで自分が聴いていた音楽とは傾向が違う、例えばこういう曲にトップリはまったりとか、なんか、そういう時期だったのかもしれない。

きっかけはBank Bandのアルバム『沿志奏逢3』だ。思えばヒートウェイヴ中島みゆき浜田省吾も、斉藤和義GOING UNDER GROUNDキリンジも、桜井和寿に教えてもらったんだよな、頭があがらんな……。このアルバムに収録されている「Drifter」のカヴァーは、かなりオリジナルを聴き込んだ今でもまったく色褪せない、素晴らしい名演だと思う(ので、良ければこちらもチェックしてね)。

順序が入れ替わってしまったけれど、こちらがオリジナル版。抑揚のない歌声、グッドだけどかなり地味でぼんやりしたメロディライン、決して主張してこないバックトラックのアレンジーーそれらの抑制された音楽要素が、主役である「うた」の「歌詞」をくっきりと浮かび上がらせる。都会、穏やかな夜、遠くを走る最終電車。それなのに自分を眠らせてくれない、どうしようもない焦燥と、鬱と、この世のけだものたちの叫び声。今でも世界中のキッチンで、リビングルームで、子ども部屋で、寝室で、小さな戦争は起こり続け、止むことはないこと。思えばぜんぶが虚しくて、それなのに追い続けて、どこかで自覚をしているから、自分の「戦い」の意味を見失いそうになってしまう。とにかく歌詞の全てがキラー・フレーズだ。思わず全て抜粋してしまいそうになる、堀込高樹の詩は刃物のように研ぎ澄まされている。それでも、やっぱり、ここかなぁと思うのは最後のサビだ……あまりにもよく出来ていて、いつもここは息を止めて聴いてしまう。ほんとにすごい、素晴らしい8行。これは、その頭。

<僕はきっとシラフな奴でいたいんだ>

わかる、わかる、わかる……。今では、すごく、SNS時代の音楽としても響いてくる。「言葉が血で血を洗う」グロテスクな光景に、決して惑わされずに、立ち続けて、考え続けることで、「戦おう」としている小市民の人々がこの歌詞の裏側にはいるようにも見える。スマホから目を離す。住んでいるマンションのどこかで子どもが泣いている。ただの夜泣きなのか、それとも……。

<僕はきっとシラフな奴でいたいんだ
子供の泣く声が踊り場に響く夜
冷蔵庫のドアを開いて
ボトルの水飲んで 誓いをたてるよ>

 たぶんこの曲が大切な人は、ほぼ全員が好きであろう名フレーズ<冷蔵庫のドアを開いて/ボトルの水飲んで 誓いをたてるよ>。生涯に1回しか書けないような、すごいパンチラインだよな。このあとの4行で絵を浮かばせるのも非常にうまい。夜の歌なんだけれど、<ムーンリヴァー>ってフレーズで、一気に、夜のさざ波寄せる海辺と、大きくて明るい月が聴く人の目に浮かび、そしてもう一度、ミネラルウォーターを飲みに起き上がった主人公が、キッチンからベランダごしに月を眺める、そんな景色が思い浮かぶ。踏み越えてゆこう、あなたと。最後は、きっと、月を見ながらこころで呼びかけているんだ。<この僕の傍にいるだろう?>

キリンジの、兄弟ペアとして挑んだ最終公演のライブ映像がアップされている。本当に眠れない夜に、たまにかける映像だ。どれだけ砂嵐の中で生きる意味を見失っても、この誓いの曲は未だに、心の中で燃えている。