Wi-Fi飛んでる? 神さまって信じてる?

音楽・マンガ・映画・その他 いろいろ感想をメモしておくブログです。

ヤマシタトモコ『違国日記』4

★★★★☆

ヤマシタトモコの描く女の人は、口がおっきくって好き。目つきがひどくて好き。その目つきで見ている"先"が好き。

主に槙生にフォーカスがあてられる第4巻。人並みのこともできない、<人に助けてもらう価値がない>わたし。でも「そういうわたし」って、つまりは、朝が言ってくれてるみたいに、砂漠の中の幻のオアシスでジュース飲んで寛いでる人ってことなんだよね。その身も蓋もないたとえが、あまりにも辛辣で、でもなんかおかしくて、そして救いでもある、と思った。

あんまり映画いっぱいは見てない僕だけどまさかドンピシャで『フライド・グリーン・トマト』が出てくるとは……やっぱちょっとメアリー・スチュアート・マスターソンのイメージ入ってるよね。ちょっとだけね。

谷川ニコ『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』16

★★★★

さすがにちょっとマンネリか? 登場人物多いし……と思ってからの、まさかの「智子謹慎篇」で主人公不在の空白を作り出すクソ上手い作劇でまたしても皆が一番見たいものを描き出してしまったこの作家さんは素直に天才だと思う。番外編からテッキトーにこの展開に進んでいく流れもうまい(時間がぱたっと止まったように感じられてすごく効果的だった)。先生たちがやさしいのがいいですね、本当にいい……(この物語がつまり、なんの物語であるのか、ということを、作家がちゃんと掴んでいるからこういう演出ができるわけだ!)。ただ、やっぱり登場人物が増えすぎてしまったので、ちょっと読むのが大変になってきたかな。次はもう17巻か。(20巻は超えなさそうな感じかな?)

吉田秋生『海街diary』9

★★★★☆

これが出てたのは、去年だし*1、買ったのは確か2019年に入ってすぐだったと思うけれど、やっぱ読んだら"終わっちゃう"から、それがちょっと嫌で今まで封を切れていなかった。でも、今年が終わるまでには、と思って、弟が婚約者を連れてきた夜に、ようやく手に取った。『海街diary』が終わった。

取り立てて大きなエピソードがあった巻ではない(なんて言うとチカちゃんが怒るかもしれないけれど)。物語全体のピークは多くの方が指摘する通り「群青」だったと思う。それでも、ひとつひとつの言葉や、想いや、そしてイマジネーションが作品世界を形作ってゆくさまは正に僕が大好きな大好きな『海街diary』そのもので、ゆっくり、そしてきっとこのまま描き綴ることも十分可能であろうその瞬間に、物語は、残り香をふりまいたまま走り去ってしまった。とても、とても大きな余韻を残す幕切れだったと思う。

番外編は「ウソッ!?」って切り口から攻める内容で、また味が違うのが良かった。ああ、終わってしまった。いや、終わってしまったのかな? 多分、終わってない。終わってないんだろうな、これが「最終巻」だったとしても。優れた物語は、鑑賞者の中に小さな港町を作り出すんです。知ってました? 覚えて帰って下さいね。このシリーズに出会えて、心から、よかった。

自分は、もしも60歳くらいまで生きられたとしたら、このあたりまで行きたい、と思います。(目標は高く!)

*1:執筆時点。いまこの原稿を書いてるのは2019年11月16日です。

ヒートウェイヴ『Blink』

★★★★

大好きな、大好きな、大好きなロックバンドの最新作。

とはいえ、7年ぶりのカムバック作だった『夕陽へのファンファーレ』、さらに続けてリリースされた『CARPE DIEM』とくると、ちょっとレアリティは落ちてる感もなくはなく、歌い上げているテーマと比較して、これまで以上に落ち着いた内容になっているなとは感じた。メロディ以上にギターの音色やグルーヴに比重を置いた内容で、すこしソロっぽい雰囲気もある(バンド感は前作よりも強いが)。だからなのか、どちらかというとロックナンバーよりもバラードやミドル・ナンバーに好きな曲が多かった。「瞳の中の少年」の続編にも聴こえる「Brotherhood」のせつない情景と確かな決意、「君を超えて」の普遍的な愛と挑戦にまつわる詩は、あああああヒートウェイヴ!!! って感じで本当に嬉しい。山口洋の素晴らしい魅力でもある、アイリッシュの雰囲気がここ数作では一番色濃かったのも最高だった。おふざけ曲なのに歌詞は鋭い「コンプライアンス」、「トーキョー シティー ヒエラルキー」を彷彿とさせる「Open」もやさしいナンバー。そして、こういう曲を書かせたら右に出る人がいないなとつくづく思うラストナンバー「夢に取り組んでみよう」が素晴らしい……58歳が唄う<夢に取り組んでみよう からっぽになって もう一度>なんて聴いてると、歳を取るのも悪くないのかな、ってちょっと信じてみたくなります。

<でもきっと僕らは星の一部にまた戻るだけなんじゃないのかな?>

Gang of Youths「The Heart Is a Muscle」

★★★★☆

マムフォード・アンド・サンズのツアーに帯同し、このブログでも取り上げた「Blood」を共にパフォーマンスしたオーストラリアのバンド、ギャング・オブ・ユースの1曲。

たまたま検索して、2〜3曲目くらいにひっかかったのがこれだったんだけど、めちゃめちゃ素晴らしくてハートを焦されてしまった。歌詞ちゃんと翻訳できてないけど、こんな力強く疾走感あるロック・サウンドで、ワイルドなヴォーカルで、<ぼくは屈しない、もう一度挑戦したい><ぼくは乗り越えたい、そして誰かを愛したい><心は、心は、心は、心は、強い。ぼくはもっと強くなりたい>って歌われたらそりゃ泣いちゃうよう……。盛り上がるポイントで炸裂しまくるブラス隊も最高。もっと、もっと、もっと、もっと、強くなりたい。

<The heart, the heart, the heart, The heart is a muscle now. I wanna make it strong!!>

Avicii『Tim』

★★★★☆

名盤……。ジャンルを越えた普遍的な「歌モノ」アルバムの傑作だと思う。

取り繕うことも出来ないほどに、暗く、重く、悲しく、死の匂いがどっぷりとただようアルバムで、その点でも「ここまで!?」と驚いたし、なのにこれほどにも優しく、豊かで、「安全」なところへとリスナーを導き、ひとりぼっちにした上で、困難に立ち塞がり苦しむ人々に寄り添う暖かな音楽になっていることに、深く深く感動した。なんか、BUMP OF CHICKENみたいだ。クリス・マーティンの「Heaven」ですら歌詞はヤバいし、「SOS」とか「Bad Reputation」とか、もはやフェスやクラブでどう踊るのか検討もつかないけれど、間違いなくどん底にいる誰かに、「わかるぜ」って傍にいられる権利を得た楽曲たちだと思う。

上を向いて歩こう」がサンプリングされた「Freak」も破壊的なくらい素晴らしい。日本人ならそのメロディラインにつけられた歌詞も同時に思い描けるわけだから、パワーは2倍以上だと思う。これぞマッシュ・アップだ。全体の曲に言えるけれど、「強い音」があまり使われていなくて、ウッディなサウンドやアコースティックな音色を駆使して、こう、「世界」を作っているところがこのアルバムのすごいところ。悲しいのに、悲しいのに、悲しいのに、どこか安心するような……。

このアルバムはあなたへ声高に「死ぬな!」「生きろ!」とは決して言わないけれど、底の底まで踏み抜いた果てに自分で自分の命を決めることができたAviciiからの、ただ生きているだけで苦しみが続くこの世界への最後の贈り物は、きっとあなたの心をもう少しだけタフにしてくれるだろう。死ぬ気力すら湧かないあなたに、せめてそれくらいの勇気が天使から授けられますように。