Wi-Fi飛んでる? 神さまって信じてる?

音楽・マンガ・映画・その他 いろいろ感想をメモしておくブログです。

Mr.Children「生きろ」

★★★★☆

これじゃん、ミスチル

2018年リリース『重力と呼吸』のロックンロール・グルーヴと若々しい歌詞、まだまだ攻めてゆくそのバンドの姿勢にめちゃめちゃ感動した僕は、続く『SOUNDTRACKS』の、美しい音像なんだけどバラードに次ぐバラード、老いに抗わない疲れ切った歌詞の数々に結構ガックリとしてしまった(より熱心なファンからの評価は僕の感じ方と真逆らしい、というのもしょぼんだった)。とはいえ、どちらも極端といえば極端な振り切れ方だったので、さあ次はどうなるんだろうと思ったら――。『SOUNDTRACKS』のチームで、『重力と呼吸』を濃縮したような新曲を、しかもベストアルバムの最後に収録とは!!!!

たった1秒で引き込まれる素晴らしいイントロ、『SOUNDTRACKS』と地続きの哀げなヴォーカルが静謐に歌を立ち上げると、しかし歌声はやがて熱を帯び、老樹のように力強く根を張り始める。そしてタイトで力強いバンドアンサンブル!! あまりにもシンプルな曲名のパワーもさることながら、「ここで!!ここで言うしかないだろ!!」というタイミングで<生きろ>って歌われたらもう、震えるしかないのだよ!

当時の記事でも書いたけれど、『SOUNDTRACKS』は喪失と哀愁のアルバムだった。失われたものへの後悔と追悼の音楽だった。<そこから またひとつ 強くなる/失くしたものの分まで>……。まぁアルバム内で言うと、この前に収録された新曲「永遠」から繋がっている側面もあるとはいえ。喪失と悲しみのどん底から、決してまだ這い上がれてはいないけれど、老いてゆくボロボロの身体を引きずりながら、それでも燃え上がる決意を歌う。ああ、それだ。それだよ、ミスチル。まだまだ「歳を取った」なんて言わないでくれ。まだまだここから、何度でも、何度でも。

<生きろ>

(ただ……ストリーミングにとは言わないから、配信でも買えるようにして欲しい……!*1

*1:2022年6月20日執筆現在

宝鐘マリン「Unison」

★★★★☆

宝鐘マリンのオリジナル曲。トラックメイカーのYunomiとのコラボレーション。

ホロライブはあんまり詳しくないのですが(船長も、だいたいどんな方なのかは切り抜きでザックリ知っているよ! 程度)、最近たまたまこの曲を知って「ええっ!?めっちゃいい曲じゃん!!!」ってビックリしたので……。

とにかく歌詞がいい。もちろんマリン船長の「船」からインスパイアされている部分はあるんだけれど、ミステリアスな歌い出しから、ああ、もしかしてこの曲のテーマって……と気づかされてゆく、この感じ。<広い空なのに奇妙な予感だ/あ、そうか簡単だ、船長を決めてなかったんだ>。<最後の航海だから行き先は選び放題/さあ舵を貸せ、交代だ>――。大勢の、とても大勢の乗組員がこの目には映るのに、実は自分以外……自分以外誰もこの「船」には乗っていないのだ。自分以外誰も乗っていないのだから、そうだ、簡単だ、この船の船長はわたしなのだ。そしてこれは最後の航海――そう、いつだって、これが最後の、たった一回の航海。

優柔不断な「きみ」が、この大きな船の中で右往左往。決められない、迷い続けて、遂には船底に穴すら開いて。でも、それでも、残酷だけれど――この船を修理できるのも、この世界にたった一人しかいないんだ。

<ああ、どうして直せるのがきみしかいないんだ?>

無機質で冷たい、機械的なトラックとヴォーカルで、きわめて抒情的でエモーショナルな「わたしはわたしだけの力でどこまでゆけるのだろう」を歌い上げるロマンチック――! という意味で、めちゃめちゃAVICIIの文脈、とも言えるのかもしれない。ちょっと泣きそうになっちゃった。マジで素晴らしい曲です。

藤井風『LOVE ALL SERVE ALL』

★★★★

藤井風のセカンドアルバム。

すっっっかり大ブレイクしまして相変わらず僕の母が大ファンなのですが、正直去年発表された「きらり」「燃えよ」が全然ピンと来なかったのも正直なところで、期待半分、まぁ自分が聴く最後のアルバムになるかもな、も半分。……だったんだけれど、先行シングル「まつり」が完全にあたまがおかしくて(褒めてる)、「これこれ!!藤井風はこの“気持ち悪さ”(褒めてる)っしょ!!!」と大興奮しました。

そうでなくとも、派手派手なヒットチューンをアルバムに再度収めるべく、特に新曲へどう繋いでいくか……の部分に並々ならぬ工夫が施されていて*1、なんだ、こういうことに気を配れるなんていいじゃないか……好き……ってなりました。改めて「青春病」は名曲で、ここへ向かうまでのアルバムの流れは特に心地良かった。そして「ガーデン」という曲、たぶん今までの藤井風の曲でもぶっちぎりに好きです。そうなんだよね、何度も季節は過ぎて、植えた花も咲いては枯れて、それでも自分の「大好き」を敷き詰めた、自分にしか見えない小さな庭を守り抜いて生きてゆくんだ、私たちは。

*1:曲間を自然に聴かせるためのアイデアの数々、実にすばらしい!

ウラニーノ『2020.EP』

★★★★

ウラニーノのEP。

2035年の世界に生きる「ぼく」が手にしたフェンダーテレキャスターが、壊滅的状況に追い込まれている2020年のライブハウスより発せられた電気信号を受信する。1曲目からたっぷりと助走をつけた物語が、2曲目の「2020」でジャカジャーンと炸裂し、燃え上がるバンドマンの焔と想いを脳天まで直に届けてくれる。何というカタルシス!! スポークンワードで”自粛警察”たちに毒を吐き散らす「TOKYO 2021」は正直全てに共感できるわけではないものの*1、物語を締めくくるラストの「劇場」は、それこそホンモノのライヴのような、演劇のカーテンコールのような高揚感があった。とても、とても、とてもウラニーノらしい25分間のロックンロール短編映画。さあ、地下アジトから、幕を上げよう!

*1:「命」より大事な「音楽」なんてないからね。

Gang Of Youths『angel in realtime』

★★★★★

オーストラリア出身のロックバンド、ギャング・オブ・ユースのニューアルバム。これは、マジで、ほんと、とんでもない、大名盤!!!

荒々しいヴォーカル、ロマンティックなメロディ、そして一体感あるバンドサウンドと煌びやかで繊細なストリングス。これまでのGang Of Youthsらしさがさらに発展し、たっぷり詰めこまれた音楽世界は実に素晴らしい。イギリス・ロンドンに移住して創作活動を再開したバンドメンバーたちの息遣いも伝わるようなリードナンバー「in the wake of your leave」は涙が出るくらいの高揚感に包まれるロック・アンセム。間違いなくアルバムを代表する名曲だろう。

だけど、このアルバムの「すごさ」はここじゃない。アルバム全体が、ソングライター・David Le'aupepeの父親に捧げられている点にある。

生前、子どもたちに多くを語ったわけではなかったという父。しかし亡くなったのち、Le'aupepeがたどり着いた驚くべき真実――。実際にLe'aupepeが経験したその「得がたい」出来事が、物語となってアルバム全体で静かに語られてゆく。そしてサウンドは次第に、父親のルーツ(そして、出生)であった南太平洋・クック諸島の伝統音楽も入り混じってゆき――。

全ての謎が解き明かされる「brothers」を挟んで、自身も家庭を持ち、父親となったLe'aupepeがその旅の中で発見した父の姿、生き様、「嘘」、そして祈り――が、さまざまな角度から、音楽として、詩として、物語として唄われ、奏でられてゆく。主人公の中に、息絶えたはずの「父」が再び宿り、血となってその身体に流れ始めたことがわかる。言葉から、歌声から、ロックサウンドと現代音楽……それら完璧に融合した南太平洋の音楽から――。そして、父が生涯愛したあのサッカー選手にインスパイアされたメドレーの2曲、「hand of god」、「goal of the century」(そう、この二つはたった数分間の間に起きたことだった……何て見事なアイデア!)でアルバムは壮大な、あまりにも壮大な、そして穏やかな夜明けを迎える――。

本当に、本当に、本当に素晴らしい“ナラティブ”のアルバムだ。ああ……やっぱり音楽アルバムって、まだまだこんな可能性があるんだぜ!! ぜひ多くの方に聴いていただきたい、2022年最初の、規格外の傑作です。ぜひ、英詩をDeepLに突っ込んで読みつつ、ご一聴を。(そして来てくれ、日本に!!)

ウカスカジー『どんなことでも起こりうる』

★★★☆

ウカスカジー、フィジカルでは5年ぶりとなるニューアルバム。『金色BITTER』の全曲をCD初収録している。カバー曲も2トラック収録。

特に新曲は、もはやフットボール全く関係がなくて、「ミスチルの曲としては……ね」みたいな、ちょっとプライベートある桜井のソロ作品が揃った印象。「PLEASE SUMMER BREEZE」や「青春FOREVER」など、年老いた心がすっかり疲れてしまって……みたいなテーマも、ミスチルの『重力と呼吸』や『SOUNDTRACKS』に近い感じだった。ただ、「Let's get together ~ウカスカクラスター~」はさすがに発表するにはちょっぴり早すぎっすけどね……!