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「ステーションバー(怪人)」でSNSでも大バズした*1、吉本浩二の最新作。
正に令和版『大東京ビンボー生活マニュアル』であり、あまりに身も蓋もない生活描写、強烈なディティールへのこだわり、そして着眼点のユニークさとやわらかさ。そして「優しさ」……と括って良いのかもうよくわかんない「生優しさ」が、ある種の不気味さへと昇華され、読んでて変な笑いがこみ上げてくる。すさまじい唯一無二のエネルギー!
あえて似た作家名を挙げてしまうが、例えば清野とおるが一貫して「ちょっとイジワル」な目線から「ヘンな人」を描いてきたのだとすれば、吉本浩二の「真剣で人を傷つけないように」する目線から描く「普通の人」の描写が、よっぽど狂気的に浮かび上がってくるあたりはもう奇跡的としか言えない。「フードコートでネームを書く」「おさいふポンタへの覚悟」「月に一回お化粧してルンルンで出かけるのが日高屋」、もうすごすぎるよ……。そして紛れもなく、これこそが(政治家たちが否定したがる)令和二年の日本国そのものなのだ。
30年後に復刊されれば正に歴史の資料になりえる、笑いとほろ苦さが入り混じった究極の、そして平凡なルポコミック。『ブラックジャック〜』、『さんてつ』、『淋しいのは〜』、そして『ルーザーズ』と、秀作を積み上げつつもこれまで表舞台で評価はされてこなかった吉本浩二に、とうとう「順番が回ってきた」と言うべき大傑作です。もともとはドキュメンタリー映画志望だったという著者のバックグラウンド、ホントによくわかります。これがホンモノの限界ルポってやつかも。
*1:ただし「ステーションバー回」は2巻以降に収録される予定。