Wi-Fi飛んでる? 神さまって信じてる?

音楽・マンガ・映画・その他 いろいろ感想をメモしておくブログです。

『ソウルフル・ワールド』

★★★★★

大傑作。

社会的な成功とはほど遠いジャズ・ピアニストの主人公が、一世一代のチャンスを前に死んでしまって……なぜか「死後の世界」から「生まれる前の世界」へと転がり込んでいくストーリー。明快な冒険活劇を意識しておらず、豊かでささやかなニューヨークの街角で交錯してゆく人生模様を、静かに、丹念に(そして、ちょっと騒がしく)追ってゆく。ここまで見てきたディズニー/ピクサー映画とは全く真逆、写実的なグラフィックをあえて意識せずに「アニメーションならでは」を追及したヴィジュアルはまさに今の時代に求められているものだと思うし、特に冒頭の圧倒的なイマジネーションも、音作りも、そしてその表現によって達成されようとしているカタチそのものも、とても豊かなものだと思えた。これ結果的にディズニープラス独占になってしまったのですが、映画館で見てたらもっと圧倒されたと思うな。

とにかく全編を彩るトーンが他の映画よりもちょっとだけオトナなのです。黒人が主人公で舞台がニューヨークでジャズがテーマで……みたいな組み合わせはちょこっと安直にも感じていたのですが、この設定だからこそ「魂の姿はまだ何者でもない」こととか、人生を「ジャズる」ってキーワードが出て来たりとか、多くの意味や示唆がそこにはしっかり含まれていて。人生の煌めきとは、才能とは、生きる「目的」とは……さまざまな問いかけに、明確な答えやセリフは用意されていないけれど、でも、なんかこの辺りだよね、そうだよね……みたいな、そういう「きらめきの瞬間」がたくさん詰まっていて、だから本当に、これは、『映画』だなと……!

イデアやコンセプト、着眼点もまず素晴らしいし、それをどういうビジュアルに落とし込むか、どういうシナリオに、どういうトーンで落とし込むのか、そして音楽は、演出は……といった、一つ一つの選択が全て丁寧に、そして見事になされていて、観終えた後はただただあたたかな溜め息が出るような素晴らしい作品。これも「たられば」だけど、もし映画館で見れていたならば、シアターから一歩外へ出た時に空を見上げて、ああ、この映画はまだ続いているんだな、と思えただろう。実はこれ、僕が考える「最高のフィルム」の条件だったりします。素晴らしい!!!

ピクサーでしょ、ディズニーでしょ、ハリウッドでしょ?」って斜めに見てしまう映画ファン&アニメーションのファンにこそ、そしてもちろん全ての人に見てほしい名画です。ある意味ピクサーっぽくなくて、そして、とてもとてもピクサーの「ソウル」に満ちた映画。こんなにストレートな人生賛歌を見せられちゃったら、明日から何を作って生きていけばいいんだろうな。そのあたりも「ジャズってく」しかねーなー、ほんとに。