Wi-Fi飛んでる? 神さまって信じてる?

音楽・マンガ・映画・その他 いろいろ感想をメモしておくブログです。

『ラーヤと龍の王国』

★★★★

執筆時点*1のディズニー最新作。

イントロダクションがあまりにもフツーで、正直どーかなと最初は思っちゃったのですが……観ている間、尻上がりにどんどん好きになっていく映画。人類が絶滅寸前となった終末世界が舞台というディズニー作品も目新しいし、……あまり予備知識を入れずに観た方がグッとくる映画だと思うので以後は軽く読み飛ばしていただきたいのですが、それこそ欧米的なアニメーション映画ではほとんどない「悪役が“次々に”仲間になっていく」展開がとてもこの映画のテーマや趣旨に合っているのがすごくいい。日本の(ていうかアジアの、だと思うのですが)エンタメでは「敵対してた人が仲間に加わっていく」のはそれなりに定番だけれど、いざディズニー映画で出てくると途端に新鮮に感じられたのが、なんかめちゃ好きになっちゃったです。

それぞれのキャラクターのバックボーンもまた見事で、「生きている人」を心の支えにしているメンバーが誰もいないんですよね。もう逝って(石にされて)しまった者たち、そして神話の中の物語をそれぞれ心の拠り所にしていて、恋人はおろか家族(擬似的なものはあれど)すら登場しない。なぜかはわからないのですが、この点はすごく、少なくとも自分にとっては没入感を深めてくれる結果になりました。また、この映画のシナハンにあたって実際に東南アジア各地のリサーチが行われたと思うのですが、そこできっと多くの「働かざるを得ない子どもたち」を見てきたはずで、それが映画に、ユニークな意味でも悲しい意味でも非常に強く反映されているのが、うまいなと。

これらの「アジア的」とも言うべき思想や定番、そして歴史がシナリオの奥深くにまで詰まっているのが素晴らしいし、そして同時に、しんどくもあって。いわゆる「ヴィラン」が出てこず、人々が恐れているのは「互いの裏切り」と「外から襲われる得体の知れない何か」だったりすること。多くが既に家族を失い、水の上に花を手向けることしかできない状態であること。同じ民族間で殺し合い、騙し合い、さらに外からの侵略に怯え、そして虐殺が繰り返されたアジアの歴史が、残酷なくらいシナリオに反映されていて。小さな民族の小競り合いをしているところに白人がバーンと登場して世を収めてくれる、みたいなハリウッド映画のお決まり内容では全くないのが、この場合はぜんぜん救いじゃないんですよね(なんか難しい書き方してしまっているけど……)。だから、実はとてもハードな内容の作品。であるからこそ、比較的単純で(観終えてしまえば)王道的な予定調和の結末に向かうとしても、そこに意思と夢があるから決して嫌味にならない。シスーがはじめて仲間たちの前に姿を表すシーンは、なぜだかわからないけど涙が出てしまいました。そうだ、いがみあっているはずのわたしたちもまた、「同じ神話」によって育まれているのだ。

映画自体のエキサイティングさでいえばそこまででも…だし、これくらい意味を見出せなければ話が面白い作品というわけでもないのですが、個人的にはかなりグッときた一本でした。多様性がある!女性の描き方が新鮮!ということよりも(ある意味、多様性はないんだよな…一民族を丁寧に描いたって話なだけで)、めちゃくちゃ客観的にアジアの人々の(ある意味)ダメなところを冷静に分析されてシナリオに書かれてしまったような、なんかそこで不思議な気持ちにさせられる……って思うとディズニー映画としては違う意味ですげーな! ってなりました。

あと、僕は、やっぱりこんくらいバチバチな百合の方が百合!!!って感じがしてスキ!!!!

本ページの情報は2021年7月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。

*1:2021年6月11日現在。