Wi-Fi飛んでる? 神さまって信じてる?

音楽・マンガ・映画・その他 いろいろ感想をメモしておくブログです。

富士葵『シンビジウム』

★★★★☆

富士葵の2ndアルバム。

まず内容に入る前に、Twitterにも以前ちょっと書いたけれど……。これは富士葵に限った問題ではないのだが(←ここ大事!)、「歌詞を活字で読むことができるのはCDを事前に買った人だけ」というのは本当にもったいないことだ。歌詞なんてテキストデータなんだから、プチリリに送信したり、tunecoreに置いたり、特設サイトに記載したり、YouTube概要欄に載せたり、Twitterのツイートにぶら下げたり……読めるようにしておく方法は、いくらでもある。特にこのアルバムの、歌詞(メッセージ、歌う内容、想い)への力の入れ方はすごかった。なのに現状、ストリーミングorダウンロード経由だと「耳」でしか言葉を判別できないから、「正しい」歌詞をこちらで勝手に想像するしかない状態だ。だからこのアルバム、僕は感動したのに、それを正しく受け取れている気が今もしないのである。ストリーミング全盛の時代に、歌詞の存在はますます薄まり、音楽が届けるテーマやメッセージは希薄化されている。そこへ立ち向かうかのような、パワフルな「歌」と「メッセージ」のアルバムこそが本作だ。なのに、正確な活字の歌詞が手元で読めないままの現状はすごく勿体ないし、ミュージシャンとして、歌手として、あともう少しだけそこに関心を配ってほしいと強く願う。今以上に歌詞を大切にしてほしい。歌を大切に届ける努力を最後まで怠らないでほしい。そうしてようやく、あなたが届けたかったメッセージは、聴く人へと正しく伝播するのだから。

とにかく、1stからは想像もつかない内容だった。これは富士葵の、2枚目のデビューアルバムだろう。それぐらいの変貌だ。

メジャーレーベルから離脱し、ほぼ本人のセルフプロデュースで作られたという本作。前作の90年代っぽい古き良きムードから一変し、ネット音楽の影響を感じさせながらも、激しくシリアスでナラティブ色の強い楽曲で全体が統一されている。地の底から這いあがるような「シンビジウム」が重苦しくアルバムの扉を開くと、続く「Eidos」で熱く・激しく「共にいるキミ」への愛を歌い上げる。その後に続く楽曲もすさまじい内容の連続で、ケルト風アレンジの「コヨーテ」、そしてノイジーなギターで現代社会を強烈に描写する「8分19秒」*1などは特に素晴らしかった。まずどのトラックもクオリティがめちゃくちゃ高いし、それだけの楽曲を揃え切ったことも勿論すごいけれど、やはりこれほどの「作品」(=1枚を通してテーマの揃ったアルバム)にまで昇華させた本人のプロデュースというか、ディレクションの力に圧倒されてしまうアルバム。どうだったんだろう……悩んで悩んで悩んだ挙句にここへたどり着いたのか、それとも実はずっとこんなことをしたかったのか、それは分からないけれど、あまりにも「これじゃん!!富士葵ってこれじゃん!!」みたいなカタルシスにもめちゃめちゃ感動してしまった。二回目の「はじめまして」を受け取ったような気持ちだ。これ正直、あんまりV界隈ではそれほど注目されていないと思うけれど、すごいっすわ。もっと聴かれていいはずだよ、これは……。

VTuberファンには、シンプルに「ええっ!?これ富士葵!?」ってビビり上がってほしいし、そうでない音楽ファンにも間違いなく届くクオリティの、正にコピー通りの“魂”のアルバム。ぜひ一聴を。

*1:でもこれもネ、歌詞カードがないと普通の人は<大勢順応の本能が>とか聴き取れんのよ……マジで勿体ない……。